某ワイルド青年の独り言


昨夜、一条副寮長の爺様が月の寮にやってきた。
いでたちや言動が相変わらず濃ゆい御仁で、俺たち夜間部一同は度肝を抜かれたわけだ。
ま、アロハシャツを着て登場されるよりは、よほどマシだけどな。
レトロな黒マントは、俺たちのような若い世代にはかえって新鮮に映ったぜ。
けど。
最古参の吸血鬼としての威厳、鋭い眼光には敬服するが……白く立派なヒゲの間に、パンの食べかすがついていたのはご愛嬌と言うべきだったのか。
まぁ、たしかに気づきにくいだろうけどな。お洒落な老紳士を演じたいなら、もうひとふんばりだぜ?
それに、ピアス。
それ、肩こり防止のツボ押しピアスと、ピアスに似せた小型補聴器だろ?
さすがの元老院の怪物も、寄る年波には勝てないってか。……無理はするなよ、ジイサン。
俺も久しぶりに故郷のジイサンに会いたくなったぜ。今度帰省した時には、肩でも揉んでやるかな。


それはそうと、結局あのジイサンは何をしにやってきたんだか。
「可愛い孫の顔を見に来ただけだ」というわりには、玖蘭寮長にばかり、熱い視線を送っていたよな。
まさかとは思うが、あの噂は本当なのか……?
いや、一条副寮長の名誉のためにも、それはここでは控えなきゃな。


どうでもいいが、あのジイサンのおかげで英や瑠佳が凹んじまって、後始末が本当に大変だったんだ。
瑠佳にも英にも、フォローを入れるのは俺の役目だということは、もはや暗黙の了解になっている。
まったく、貧乏くじだぜ。
貧乏くじと言えば、副寮長も気の毒なこった。
昨夜のアレで、一条家に、厳密には一翁個人にだが、反感を持った奴も少なくないだろう。英を筆頭にな。
英の奴は子どもじみたところがあるから、今後副寮長にやつあたりすることもあるかもな。
あっちを立てればこっちが立たず、こっちを立てればあっちが立たず。
夜間部とジイサマの板ばさみか。
中間管理職ってやつは大変だ。
一条副寮長。同じ貧乏くじキャラとして心底同情するぜ……。


(2005/10/16)





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