某吸血鬼ハンターの独り言


黒主学園滞在は散々だった。
今後またハンター協会の要請があったとしても、もう二度とあそこには行きたくない。


黒主学園の夜間部は、巷では、非の打ち所のない生徒の集まりのように言われている。
だが。
なにが品行方正だ、なにが全員貴族階級だ。たしかに見た目は麗しいが、奴らの品性は最悪だ。
あの授業態度はなんだ。
ナイフを投げつけられるくらいのことはかまわない。仮にも俺はナンバー1ハンターだからな。その程度の脅しではひるまない。――それはいいのだ。
だけどあれはよくないぞ。難問ばかり持ち出して教師を質問攻めにしたり、ちょっとした間違いをこれでもかと言うほどあざ笑ったり。
貴様ら、にわか倫理教師をいじめてそんなに楽しいのか。そんなに自分たちの知識をひけらかしたいのか。
あらかじめ、眠ったら処刑リストに書き加えるぞと言い渡しておいたのに、どいつもこいつも本気で爆睡しやがって。
しかも起こそうとしたら、「冗談抜きで授業が退屈すぎる。小学校からやり直せば?」と抜かしやがった。
強面だからといって、俺が傷つかないとでも思っているのか。
おい、黒主。足元を見ろ。学級崩壊が始まっているぞ。
人間と吸血鬼の平和的共存とかなんとかほざいてないで、まずは教師と生徒の平和的共存の実現を目指せ。
いいからなんとかしろ!
ちくしょう。あいつら全員、処刑リストに名前を加えてやるからな!!


しかもとどめはあいつだ。玖蘭枢。
ちょっと嫌味を言ってやったらすぐに反応して俺を攻撃しやがった。
フン。冷静なように見えても所詮はガキか。
――と言いたいところだが、あいつが裂いた手の傷は、本気で痛かった。
あいつが俺を振り返らずにあの場を去っていったのは幸いだった。あの後俺は、あの場にうずくまって悶絶したんだぞ。
しかも保健室で治療してもらおうにも怪我の原因を問われると返答に困るから、そのまま傷を舐めるしかできなかったんだ。そしたら傷口が化膿しやがった。
ちくしょう。一刻も早く病院で診てもらわねば。
だから俺は予定を早々に見送って、学園を去るしかなかったんだ。


すまん、零。おまえのことは心配だが………今は俺の手のことも心配なんだ。
なにせ俺の手は商売道具でもあるからな。使い物にならなくなったら、俺はおまんまの食い上げだ。
なーに、おまえにはあの小娘がついている。あの娘を味方につけている限り、玖蘭枢もおまえに直接手を出したりはしないだろう。
だからおまえは足掻いて足掻いて足掻きまくれ。
決して俺を失望させるような真似はするなよ。
最後まで諦めるな。最後まで俺のように強く生き抜けよ、零……!


(2005/10/16)





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