Alice+Gowland (Alice in Heart)


「この国ではいい天気じゃないことなんてないけどいい天気ね、メリーさん」
「…………」
「絶好の遊園地日和だと思わない? メリーさん」
「…………」
「お客の入りも上々だし、これもメリーさんの経営手腕の賜物かしら。さすがはメリーさん」
「なあ、アリス」
「そうだ。後でメリーゴーランドにでも乗らない? メリーさん」
「……なあって」
「ああ、もしかしてメリーさんはメリーゴーランドは苦手だった? なら、お化け屋敷にしましょうか、メリーさん」
「…………すまん、俺が悪かった。だからもう勘弁してくれ」

 にこにこにこにこ、と完璧な笑顔を崩さない私とは対照的に、苦虫を噛み潰したような顔で私を見つめていたゴーランドは深い溜息をついてがっくりと項垂れた。力なく落とされた肩からは疲労と哀愁のオーラが感じられて、胸がすいた。いい気味だ。
 無邪気さ、純粋さなどといった言葉とは無縁。冷めていて、皮肉屋で、捻くれ者。
 それが私という人間であり、それはこの世界で私に近しい者たち共通の認識でもあるはずだ。
 その私が見せる爽やかすぎる笑顔は、私をよく知るゴーランドの目にはさぞかし不気味に、そしてこの上もなく嫌味ったらしく映ったことだろう。
 しかも私はゴーランドにとっての最大の禁句をわざとらしく連呼し続けた。ちょっとしたことで人が人を殺すこの世界の住人には珍しく温厚かつ良識的なゴーランド相手とは言え、この場で撃ち殺されてもおかしくないことを私はしている。
 だけど私は、彼のバイオリンがライフルに変化することは絶対になく、むしろ彼のほうが先に折れることが分かっていてこんな態度をとっているのだから、なおさら性質が悪い。
 もっとも今回は責められてしかるべき理由がゴーランドにあったからこそ、私もこうして普段以上に嫌な女を演じたのだけれど。

「勘弁してもらいたいのはこっちのほうよ。もう、あんな寒々しいお茶会はうんざりだわ」

 一応のゴーランドの謝罪を受け、作り物の笑顔という武装を解除した途端、さっき彼が零したそれ以上に深い溜息が私の口から零れた。ゴーランドだって疲れただろうが、私だって件のお茶会に同席させられてからというもの、いろんな意味で疲れきっている。
 そんな私を見遣り、ゴーランドは私をベンチに残して目と鼻の先にある売店に向かう。紙コップに入ったコーヒーを二つ手にして戻ってきた彼は一つを私に手渡しながら、催し物には出来る限り出席しなきゃならねえってのがルールなんだ、と次があれば再度出席するだろうことを暗にほのめかし、コーヒーを口にした。
 それと同時に私の顔が歪んだのは、ゴーランドの言葉のせいなのか、それとも喉を潤したコーヒーが苦かったせいなのか。

「しっかしなあ……。たしかに俺も調子に乗っちまったが、あんたも相当いい性格してるよな」
「そんなにしみじみ言われなくても自覚してるわ。その上、可愛げがないこともね」

 事実だ。だからこそゴーランドの失礼な発言も平然と肯定できるし、それどころか不足している要素を自ら補ってやれる。
 彼がささやかな意趣返しに私を怒らせたかったのなら甘く見すぎだ。私はこの程度では腹は立たない。
 だけど、あてが外れただろうにゴーランドが悔しがるでもがっかりするでもなくにやりと意味ありげに笑ったから、少し構える。

「いや、可愛げならあるぜ?」
「……なによ」
「さっきのあれ。こないだのお茶会で俺が帽子屋をおちょくり倒したことへの仕返しのつもりだったんだろ?」
「はあ!?」

 突拍子もないことを言われて、素っ頓狂な声が上がる。
 私の反応に気を良くしたのだろう、ゴーランドはうんうん、と一人勝手に納得したように頷いてみせるが、あからさまなまでに芝居がかった態度が嫌な感じだ。
 空になった紙コップをぐしゃりと握り潰し、私は呆れの眼差しでゴーランドをねめつけた。

「何言ってんのよ、あんた」
「恋人の敵討ちをしようなんざ、泣かせるじゃねぇか。あんたって実はいじらしい女だったんだな」
「ちょっと。勝手に変なシナリオと性格設定作ってんじゃないわよ」
「可愛いな〜、アリス」
「だから違うってば!」
「否定しなくていいぜ、分かってるから。照れんな照れんな」
「全否定するわよ! あんたは全然分かってないし、私は照れてない!」

 にやにや笑うゴーランドは今、してやったりという気分なのだろう。
 ――くそう、ただでは転ばないおっさんだ。この食わせ者め。
 負け犬の遠吠えは悔しいので、心の中でだけ罵ってやる。
 腐っても鯛。どれだけ人が好さそうに見えても、ゴーランドは帽子屋とハートの女王と肩を並べる三大勢力の一角を占める大物だ。私のような小娘一人、難なくあしらえないようではトップは務まらないということか。
 と言うより今の場合はむしろ、いとも簡単に熱くなってしまった自分の未熟さ単純さを恥じるべきだろう。所詮私は小賢しくとも悪党になりきれない小悪党なので、想定外の出来事には弱い。相手を甘く見ていたのは私のほうだ。
 それに気づけば、頭はすぐに冷える。

「とんだ勘違いよ、ゴーランド」

 ブラッドと私はたしかに関係を持ってはいる。家主と居候の関係以上の、それだ。
 私は友人であるゴーランドにもブラッドとのことを話したことはないけれど、思えば最初のお茶会のときからゴーランドは私たちの関係に気づいていたようだった。もしかしたら彼は独自のルートで情報を掴んでいたのかもしれない、――帽子屋と居候の余所者はできていると。
 そうでないにしても、付き合いの長さと密度が増せば、おのずとそういう雰囲気は滲み出てしまうものだ。面倒事を好まない私たちは自分たちの関係をおおっぴらにはしていないけれど、見る者が見れば分かるだろう。
 加えて、前回のお茶会は決定的だった。ブラッドのあの尋常でない嫉妬深さを目の当たりにしてしまった以上、ゴーランドに誤解をするなと言うほうが無理な話なのかもしれない。

 『恋に狂わされている』

 あの時ゴーランドはブラッドのことをそう言ったけれど、ブラッドが私に対して抱いているのは恋情などではない。
 傍目にはどれだけ恋人のような関係に見えようとも、ブラッドにあるのは女を所有物扱いしたがる男の矜持と子供じみた独占欲だけだ。しかもその女が世にも稀なる「余所者」とくれば、執着の度合いも増すというもので。

 ブラッドにとっての私――。

 ブラッドの言葉通りに言えば、私はブラッドのものだ。だけど私は彼に大事にされていると思ったことなどないのだから、ものはものでも愛玩物とすら呼べまい。
 気まぐれに、好き勝手に扱われるだけの「もの」。ブラッドの退屈を紛らわせるためだけにある、おもちゃと同じ。それが私だ。
 そう、ブラッドが熱くなるのは、自分のお気に入りのおもちゃを他人に触れられるのが許せないだけで……。

「違うもの……。あんたの言ってることは全部……違う」

 ――私とブラッドは、
 
「そんなのじゃない……」

 ――恋人なんかじゃない。

 その声音が自分でも意外なほどに暗く沈んで聴こえ、私は自分自身に舌打ちしたくなった。
 すかさずそこを突かれるかもしれない。
 そう思ったのは杞憂に終わり、ゴーランドは訝しげな表情をほんの一瞬浮かべたもののすぐに普段どおりの顔に戻り、ふーん、と一言呟いただけで、それ以降、特に何かを追求してくるようなことはなかった。
 ゴーランドは愚鈍ではない。私とブラッドの関係を疑うことはなくても、今の私の様子に何か感じるところはあったはずだ。それでも、踏み込んでくれるなという私の気持ちを察してそのように振舞ってくれるのだから、彼は大人だ。
 私はゴーランドのこういうところが好きだ。こちらの事情に立ち入ってくることはしないからといって、彼が私のことをどうでもいいと思っているわけではないことも分かっている。それが有難く、心地好い。
 だからこそ私は、ブラッドの機嫌を損ねることが分かっているのに、こうして懲りずに遊園地に足を運んでしまうのだろう。

「私は、敵の本拠地で相手を挑発するような命知らずな真似はやめろと言っているのよ」
「大丈夫だって、そう簡単に殺られやしないから。今だって、ちゃんと生きてるだろ?」
「あのとき私が止めなかったら蜂の巣になってたわよ……」

 恩に着せるつもりも恩に着せたいわけでもないが、あの時ブラッドが本気で怒り、ルールを破ってやると言い切った以上、私が咄嗟に止めに入らなければゴーランドは間違いなく殺されていたはずだ。
 ブラッドとゴーランドの力がどれほどのものかは知らないし、ゴーランドを過小評価するつもりもない。なにしろ、大体の安全が保障がされているとはいえ絶対の安全の保障がない敵の本拠地に単独で堂々と乗り込んでくるくらいだ、彼の自信はそのまま彼の実力に繋がっているのだろう。
 けれど、領主は己が支配する領土内では無敵だと聞いている。それが事実なら、場所が帽子屋屋敷である限り、ゴーランドは絶対にブラッドに敵わないはずだ。

「言っておくけど、次にブラッドを止められる自信なんてないから。あんな短気で物騒な男をからうなんてこと、もうよしてよ?」
「だってよー、余裕崩れまくりの帽子屋なんて滅多にお目にかかれないんだぜ? あんただって、おもしれえと思ったろ?」
「面白くなんかない!」
「そっかぁ?」
「…………や。自分が係わってなくて、あそこまで差し迫った状況でさえなかったら、面白かったでしょうけど」
「だろ?」
「『だろ?』じゃないわよ……」

 普段余裕たっぷりの男を動揺させるのはたしかに爽快だ。私自身、些細なことでブラッドを揺さぶったことは何度かある。だけどその都度絶対零度のオーラで威圧されるかその後に手痛いしっぺ返しをくらう羽目になるということを嫌と言うほど思い知らされた私は、もはやブラッドをからかおうなどという気にはなれない。ブラッドは、いろんな意味で怖い男なのだ。

「とにかく私は、いつ血の雨が降るかもしれないお茶会なんてごめんなの」
「あー、そうなったらカップの中身が血なのか紅茶なのか分かんなくなっちまうもんな、せっかくのお茶会なのに」
「……そういうことを言ってるんじゃないけど、そういう事態を回避したいと言ってるのよ、さっきから」

 血の雨が降りしきる中、お茶会で友人の血だか紅茶だか分からないものを啜るなど冗談ではない。
 自分が面白がるのは好きでも面白がられるのは許せないという、とんでもない我侭男であるブラッドもブラッドだが、それを承知でブラッドをからかい続けたゴーランドもゴーランドだ。自分の領土内でならともかく、無謀にも程がある。
 こんなふざけた奴らがこの世界の頂点に君臨する領主かと思うと脱力する。
 実際に、がくりと頭が下がった。

「こんなどうしようもない奴らに振り回されてる自分が心底情けなくなってくるわ……」
「すまんすまん。あんたもおもしれえから、また調子に乗っちまった」

 ぽん、と骨ばった大きな手が私の頭頂部に触れ、そのままなでなでと頭を撫でたから、私は軽く息を呑んだ。目線だけをゆっくりと上げて、何のつもりかと視線で問う。

「ふざけちまったお詫びだ」

 にかっ、とゴーランドが笑う。
 対する私はと言えば、鏡を見るまでもない、憮然とした顔をしているはずだ。子供扱いされるのは心外だとでも訴えるかのように。
 だけどそれは反面鏡だということに自分でも気づいている。捻くれ者の私には、素直な気持ちを曝すことは難しい。
 実際に子供扱いされるのは嫌いなはずなのに嫌な気がしない自分がくすぐったく、気恥ずかしい。耳の辺りがほのかに熱くなったような気がしたのは、私の気のせいではないはずだ。
 きっとゴーランドはそんな私の全てに気づいている。その上でそれに気づかないふりを決め込んでくれるのだから、悔しいけれど、彼は本当に大人だ。
 そして、それでもなお渋面を崩せない私は、悔しいけれど、本当に子供だ。

 ゴーランドはそれを「お詫び」と言ったけれど、詫びる行為と頭を撫でる行為は普通はイコールで結ばれるものではない。
 こんな、無骨なくせに慈しむような手つきは、お詫びというよりむしろ、傷つき落ち込んでいる子供を癒し、励まそうとするような行為にこそ相応しいのではないか。
 そう考えて、気づく。つまりは、そういうことだということに。

「……ゴーランドって、」
「ん?」
「……いい奴よね」
「な、なんだよ、いきなり」
「音楽も服もセンスゼロだけど、あんたはいいおっさんだわ。こんなので領土争いのゲームとやらで生き残れるのか、不安になってくるくらいに」
「…………褒めているように見せかけて、実はけなしてたのかよ……」

 「おっさん」言うなよ……と、情けなく肩を落としているゴーランドは一見すれば、極悪なセンスの風体を除けばどこにでもいそうなおっさんで(おっさんはおっさんだ。お兄さんと呼ぶには、彼はいささか薹が立っている)、ブラッドやビバルディのような鮮烈なカリスマ性はない。
 だけど、いつのまにか人の信頼を集めてしまう人徳のようなものがある。カリスマと呼ぶにはかなり地味だが、それこそが彼のカリスマ性なのだろう。

「俺だってそれなりにすげえんだぜ? でないと今、三つ巴のまま膠着状態が続いてるわけないだろ?」
「分かってるわよ。あんたをなめてるわけじゃないし、正真正銘の善人だと思ってるわけでもないわ」

 私が今見ているゴーランドが彼の全てだとは思わない。殺し合い、奪い合わねばならないゲームのメインプレイヤーの一人なのだから、彼とて相応の暗部を持っているはずだ。
 領主たちの中でゴーランドだけが血生臭いことに手を染めていないわけがない。
 遊園地という形を取っているのは彼の趣味であって、やっていることはマフィアと大差ないというのは、以前ブラッドが私に語ったことだ。

「それでも、あんたはいい奴だと思うわ。あんたは帽子屋屋敷の居候である私にも親切にしてくれるし、私を利用しようともしないお人好しだもの」

 普段物騒な言動を取らないゴーランドが唯一自分の手で殺してやると公言して憚らない相手がブラッド=デュプレであり、そのブラッドが私に夢中になっているとゴーランドが思い込んでいるのならば、私にそんな価値がないというのが実情であっても私は格好の駒であるはずなのに。

「あんたは余所者だから、俺たちのゲームのカードにはなり得ない」
「そうね、私にはあんたたちのゲームに口を挟んだり係わったりする資格はない。だけどもし私が使用可能なカードだったとしても、あんたはそれを使わないような気がする」
「…………。あんたは大事な友達だからな」
「そういうところがお人好しだって言ってるのよ」

 ふふん、と鼻を鳴らすように断言した私にゴーランドが複雑そうな顔をしたのは当然だ。地位も権力もある大物が、こんな小娘風情に甘さを指摘され、いい奴だとかお人好しだとか言われても微妙な気持ちにしかなれまい。それに彼自身、懐に入れた者に対する甘さは自覚しているのだろう。
 だけど今度はゴーランドのほうが、ふふん、と鼻を鳴らす。

「あんたこそ、お人好しだと思うぜ。帽子屋の世話になってるくせに、奴の敵である俺を心配してわざわざ忠告しに来るんだからよ。……ま、忠告の仕方は、ちょっとばかし捻くれてるがな」
「『あんたは大事な友達だから』なんて、私は言ってやらないわよ?」
「ああ、いいぜ。そのほうがあんたらしい」

 でもありがとな、と付け加え、ゴーランドは目を細めた。
 ……そんなふうに言われたら、そんな顔をされたら、準備してあった悪態も喉の奥に引っ込んでしまうではないか。
 敵わない。
 そう思う。
 そして、ゴーランドにはずっと敵わないままでいたいと思ってしまう。
 彼に敵わないと自覚するたびに感じるくすぐったさは、気恥ずかしくとも、失くしてしまうにはあまりに勿体無いものだから――。

 私は他人に素直に甘えることができない性分で、ゴーランドはそんなふうに虚勢を張ってしか生きられない私を見かねて、つい甘えさせてやりたくなるのだろう。私への友情と彼の性分がそうさせているだけであって、それは恋情ではない。
 私もゴーランドの前では、子供じみた自分を不思議と許してやることが出来る。だけどそれはやはり恋情ではない。
 相手の全てを掌握したいわけではなく、自分の全てを掌握されたいわけでもない。そんな気持ちと距離感で満足できる関係は、友情としか呼べない。少なくとも私が知っている「恋情」とは、もっと切羽詰っていて、もっと貪欲で、もっと性質の悪いものだ。
 私とゴーランドの関係は友人以上でも友人以下でもなく、今後友情が恋情に発展していくことも、おそらくないだろう。
 ゴーランドは私が誰を見ているのか知っているし、私の視線がその男……ブラッド以外を追うことがないだろうことも、きっと分かっている。
 ブラッドとのことに疲れ、傷ついたときに、避難所に駆け込むようにして私がゴーランドに会いに来ていることも。
 私を傷つけるブラッドの手と、私を癒してくれるゴーランドの手と。
 最後に二者択一を迫られたとき、迷わず私が選ぶ手がどちらであるかということも。
 全て分かっているくせに、それでもゴーランドは卑怯な私を穏やかに、あるがままに受け入れてくれる。
 本当に、お人好しだとしか言いようがないではないか。

「……もしまたお茶会が催されるのなら、次も同席してあげるわ」

 気づけば私はそんなことを口走っていた。どうせまた針のむしろのようなお茶会になるのが目に見えているというのに。肝心の紅茶や茶菓子の味はそっちのけで、ブラッドの杖がいつ光り出すかということばかりに意識を向けねばならないお茶会など、うんざりだというのに。

「だけど今度ふざけた真似をしたら、ブラッドにあんたの弱点をばらしてやるから覚悟しなさいよ」
「……弱点て、アレのことか?」
「そう。遊園地のオーナーのくせに、あんたが園内でたった一つ、絶対に近寄ろうとしないアレのことよ」

 う、と顎を引いたゴーランドに、意地の悪い私は冷めた目で追い討ちをかけてやる。

「ブラッドのことだもの、そんな面白い情報を掴もうものなら、即、」
「ああ……。言いふらすだろうな、絶対に。それもご丁寧に、国中に広まるように。俺の名前を言いふらしやがった時みてえによ……」
「もう、下手にブラッドを刺激したりしないわよね、ゴーランド」
「……ああ、あんたを困らせるようなことはもうしねえ。誓う」

 盛大に溜息をついたゴーランドに満足してにっこり微笑んでやれば、彼はますますげんなりとして天を仰いだ。

「脅してでも言うことを聞かせるあんたは、本当に友達思いのいい奴だよな」
「どうしようもない家主と、どうしようもない友達のおかげで、気苦労が絶えないのよ」

 天を仰ぎたいのは私のほうだ。
 本当に、どうしようもない男たちに振り回される身にもなってみろと言いたい。
 どれほどどうしようもない奴らであろうとも、ゴーランドが傷つけられるのも、ゴーランドを傷つけようとするブラッドも、どちらもごめんだ。どれだけ大金を積まれたとしても、どれだけ貢物をされたとしても、絶対にそんなシーンは見てやらない。
 だから私は、不平不満を零し続けながらも、次だけとは言わず、お茶会が続く限り、どうしようもない男たちを監視するために、彼らの不毛な茶番に付きあい続けるのだろう……自分から。


 腹立たしいけれど、そんな私こそが一番不毛で、一番どうしようもないに違いない。







友情は恋情に至るまでの
中間点ではない

 お題配布元 : リライト
(2007/05/15)




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